商品価値を高める! 取引先への「ネーミング支援」|「近代セールス」2021年11月1日号掲載記事

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昨年(2021年)11月、私が執筆したネーミングに関する解説記事が専門誌「近代セールス」に掲載されました。この度、近代セールス社のご厚意により、この記事について公開の許可を頂きました。以下、私が作成した元原稿および近代セールス誌の完成誌面を公開します。この記事はネーミングの基本を網羅しています。ネーミングに関心のある方はぜひご一読ください。

(注)「近代セールス」は金融機関の現場に密着した営業推進の専門誌で、主な読者層は銀行の融資担当者の方です。このため、本記事は融資担当者が取引先(融資先)の製造・販売する商品の商品価値や売上げを高める施策としてネーミング変更を提案するというシチュエーションを念頭に作成しています。

「近代セールス」2021年11月1日号誌面
目次

商品価値を高める! 取引先への「ネーミング支援」

「お~いお茶」、「通勤快足」、「鼻セレブ」…。ユニークなネーミングが商品を世の中に知らしめ、売上を5倍、10倍と伸ばしていくのに有効なツールであることはよく知られている。このような事例を参考にネーミングに挑戦する中小企業も出てきている。しかし、「ネーミングセンス」という壁に阻まれ、なかなか成果を出せていないのが実情である。

この企画では商品価値を高める手段としての「ネーミング」に着目し、その視点から取引先にアドバイスする方法を提案したい。

商品名のネーミングは「良い商品なのに売れない!」を解決する

取引先の社長から、「うちの商品は良い商品なのに売れない!」という言葉を聞いたことはないだろうか?

私も弁理士として新商品の特許取得などの相談を受ける中で、しばしば「良い商品なのに売れない」という嘆きを聞く。そして、その中身を分析してみると、概ね以下の3つの類型に分類される。

 類型問題点
パターン①そもそも商品が良くない商品開発・市場調査
パターン②売る相手を間違っているターゲット選定
パターン③商品の魅力が伝わっていない情報発信
「良い商品なのに売れない」の類型

パターン①は商品自体に問題があるケース(品質や機能が不十分、市場ニーズを満たしていない等)。これに対し、パターン②や③は商品が悪いというよりも、売り方に問題があるケース。即ち、売り方を工夫すれば、商品の売上が伸びる可能性を秘めているケースだ。

商品のネーミング変更はパターン②、パターン③の改善策として極めて有効だ。ユニークでオリジナリティに溢れる商品名はターゲットに「これは自分のための商品だ!」と認識させ、商品の魅力をアピールし、見込み客の感情を揺さぶり、新たな購買層を掘り起こす効果がある。

だからこそ、「良い商品なのに売れない」と嘆いている取引先には商品名に配慮しているかを確認し、ネーミングに注力することを勧めてみるとよい。

商品名のネーミングは取引先にこんな効果をもたらす

前項で説明したように、商品名のネーミングには様々な効果を期待することができる。最も端的なのが商品の売上UPである。ネーミング変更で売上UPに成功した事例をいくつか見てみよう。

ネーミング変更後ネーミング変更前変更後の売上
「お~いお茶」「缶入り煎茶」6倍
「鼻セレブ」「モイスチャーティシュ」10倍
「まるでこたつソックス」「三陰交をあたためるソックス」17倍
ネーミング変更で売上UPに成功した事例

世界初の缶入り煎茶である「缶入り煎茶」。しっとり柔らかな肌触りで高級保湿ティシュという新たなジャンルを確立した「モイスチャーティシュ」。三陰交というつぼを刺激することで足を温めるという斬新なコンセプトの「三陰交をあたためるソックス」。

いずれも画期的な技術を採用した良い商品だ。しかし、これらの商品は期待したほど売れなかった。その原因の一つが商品名にある。いずれも商品の内容をそのまま説明したにすぎないような商品名で、見込み客に商品の魅力が伝わらなかったのだ。

これに対し、変更後の商品名を見てみると、「お~いお茶」は口語調でお茶を飲むシーンをイメージさせ、「鼻セレブ」は「セレブ」という言葉で高級感をユニークに表現しており、「まるでこたつソックス」は暖かさの象徴である「こたつ」という言葉を巧みに使っている。このようなネーミング上の工夫が見込み客の感情を揺さぶり、商品に対する興味や関心を引き寄せ、商品の売上UPに繋がったのだ。

また、ネーミング変更には新たな購買層を掘り起こす効果がある。こちらは実際に私がアドバイスをした事例で説明しよう。

その企業は高麗人参を原料とする酵素ドリンクを販売していた。主な購買層は50代・60代の高齢者。しかし、この商品の企画担当者にはある思惑があった。「この酵素ドリンクは若い女性にこそ飲んで欲しい!」。そんな思いから若い女性をターゲットにした新しい商品ラインを企画していたのだ。

そこで、私からは、

  • 「もっと自分らしく生きていいんだよ」、「体の内側から変えていくことで、生き生きと充実した人生を歩めるんだよ」等のメッセージが見えるといいんじゃないか?
  • 「キレイになる」、「健康になる」のもう一歩先まで見せて、そこに商品価値を見出してもらったらどうか?
  • 「女性としての生き方を変えていくアイテム」と捉えてみてはどうか?

等のアドバイスをした。

その結果、でき上がった商品名が「ハルカの酵素」だ。

「ハルカの酵素」商品画像

カタカナ書きで女性の名前を入れたネーミングとし、身体を温める効果を訴求するため、「スイッチ温」というキャッチコピーも付した。また、パッケージもポップなデザインとし、若い女性向けの商品であることをアピールした。

その結果、「ハルカの酵素」の購買層は20代・30代がメインとなり、若い女性をユーザーとして取り込むことに成功している。

取引先のネーミング施策をチェックする

以上説明したようにネーミングには様々な効果を見込める。金融機関の担当者としては自らの取引先にもネーミングに力を入れて欲しいところだろう。しかし、中小企業でネーミングの施策がうまくいっている例は少ないというのが実情だ。

最近、中小企業の間でも商標登録の重要性が認識され、中小企業による商標登録の出願件数は増えている。実際、私も弁理士として商品名のネーミングについて相談を受けることが多い。しかし、そのネーミングのレベルは概して低めである。「缶入り煎茶」と同様に商品の内容説明にすぎないネーミングが大多数なのだ。このようなネーミングでは仮に商標登録をすることができても売上のUPや新たな顧客層の開拓は期待することができない。

そこで、金融機関の担当者には取引先の商品の商品名やサービス名のネーミングに関心を持ち、適正なネーミングが行われているかチェックし、改善のためのアドバイスをすることをお勧めしたい。

以下、ネーミングをチェックする際の基本的な考え方とチェックポイントを挙げる。

(1)商品名の役割を果たしているか?

商品名には果たすべき役割がある。ネーミングをチェックする際には商品名がその役割を果たしているかという観点から確認してみるとよい。商品名の役割は、商品にその名前を付けることによって、

  1. 自社商品の強みを表す
  2. 競合商品と差別化する
  3. 見込み客に親近感を持ってもらう

ことである。

このような観点からチェックポイントをまとめてみると、以下の通りである。

商品名の役割チェックポイント
①自社商品の強みを表せているか?●競合商品にはない独自の機能やコンセプトをアピールできているか?
●その会社に固有のワードを使っているか?
②競合商品と差別化できているか?●競合商品の商品名と似たワードを使っていないか?
●安易に流行りのワードを使っていないか?
③見込み客に親近感を持ってもらうことができるか?●難しい専門用語を使っていないか?
●馴染みのない外国語を使っていないか?
商品名の役割についてのチェックポイント

商品名を

  • 自社(Company)
  • 競合(Competitor)
  • 顧客(Customer)

の3つの視点(3C)で評価することが大事である。

(2)良い商品名としての条件を満たしているか?

商品名をチェックする際にはその名前が良い商品名としての条件を満たしているかをチェックするとよい。良い商品名は見込み客を商品に気づくきっかけを与え、商品に興味や関心をもたせることができ、商品の魅力を瞬時に発信し、口コミやSNSで伝えてもらえる等の特徴がある。

そのような意味で、良い商品名として満たすべき条件としては、

  1. 音に面白さがあること
  2. 覚えやすいこと
  3. インパクトがあること
  4. メッセージ性やストーリー性があること

を挙げておきたい。

このような観点からチェックポイントをまとめてみると、以下の通りである。

良い商品名としての条件チェックポイント
①音の面白さ●濁音・半濁音、音の繰り返し、擬音語・擬態語などの特徴的な音を使っているか?
②覚えやすさ●長すぎないか?(目安は3-7音程度)
●難しくないか?
●ダジャレや有名な言葉になぞらえているか?
③インパクト●一回聞いたら忘れられない商品名か?
●誰かに話したくなる商品名か?
●意外性はあるか?
④メッセージ性・ストーリー性●作り手の思いが感じられる商品名か?
●購入者の共感を得られる商品名か?
良い商品名としての条件についてのチェックポイント

最後にこれらの条件を満たしていると思われる秀逸なネーミングの事例を独断で選んだ。ネーミングについてアドバイスをするなら、できるだけ多く良い商品名(お手本)に触れて欲しい。

商品名一言コメント
台所用洗剤「キュキュット」音が楽しい。お皿がキレイになった状態を音で表現したところが素晴らしい。
清涼飲料「神社声援(ジンジャーエール)」「神社」と「ジンジャー」をかけ、「声援」を「エール」と読ませたところで一本あり。神様が応援してくれているようなありがたみを感じる。
エコバッグ「シュパット」横に引くと一瞬で畳めるエコバッグ。商品の特徴を感覚的に表現しているのがよい。
消臭剤「消臭力(しょうしゅうりき)」「力」を「りき」と読ませて、プロレスラーの長州力をイメージさせた。一度聞いたら忘れないインパクト。
緩衝材「プチプチ」プチプチと潰して遊んだ人も多いだろう。商品の形状もイメージできる。地味な工業製品にこの名前を付けた担当者に拍手。
富山米「富富富」富山の水、富山の大地、富山の人で「富富富」。食べた人に「ふふふ」と微笑んでほしいというメッセージも。
秀逸なネーミングの事例

ネーミングをしたら商標権を意識する

取引先にネーミングの指導をする場合には商標権の重要性についても伝えておこう。

商標権は商標権者に対し、特定の名称(商品名・サービス名など)を独占的に使用することを認める権利だ。たとえ取引先が独自に考えた商品名であっても、その名前について既に誰かが商標権を持っている場合には取引先はその名前を使うことができない。

取引先が商標権者に無断でその名前を使用すれば商標権侵害となり、商品名の使用を差し止められたり、損害賠償金を請求されることもある。一度、商標権侵害の問題が発生すると、取引先が金銭的にも精神的にもダメージを受けることになり、また、取引先の信用が失われることにもなりかねないから注意が必要だ。

このため、取引先には商品名をネーミングした場合でもすぐに使い始めるのではなく、他人が商標権を持っていないか商標調査をすること、更にはその商品名を安心して使い続けられるように自ら商標登録をし、商標権を取得すること、を検討させるのが望ましい。

但し、特定の商品名が他人の商標権を侵害するか否か、自らが商標権を取得することができるか否かの判断は専門的な知識を必要とし、一般人に判断することは難しい。そんなときは知的財産の専門家である弁理士に相談することをお勧めする。日頃から気軽に相談することができる弁理士を作っておくことで徐々に商標権に関する知識もついてくる。是非、試して欲しい。

「近代セールス」2021年11月1日号 完成誌面

こちらが私の元原稿から作成された「近代セールス」誌の完成誌面です。4ページの特集記事として掲載されました。近代セールス社のご厚意によりPDFデータをご提供いただきましたので、ここに公開します。

謝辞

この記事の執筆に当たり、近代セールス社および近代セールス編集部・長谷川健太 編集長には有益なご助言を頂きました。また、今回の記事公開に関しても快くご協力頂きました。この場を借りて深くお礼を申し上げます。

近代セールス社|ウェブサイト

KINDAI Online(近代オンライン)
近代セールス社発刊の3誌『近代セールス』『バンクビジネス』『FA』の特集記事をWEBで発信するサービスです。

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